ブッダ物語18 旅立ちとカンタカ
王子が侍者チャンナと共に、カピラ城を静かに抜け出したのは、真夜中のことでした。
王子は、はじめて、立ち止まり宮殿を振り返りました。彼が生まれ育った地のすべての知人や肉親が住む宮殿は、月明かりの中に寝静まっていました。
夜通し馬を走らせ、ふたりは、シャカの国と、マガダの国の国境を流れるアノーマー川(Anomā)にたどり着きました。川を越えると王子は馬を降りました。
それから、上等な絹の服を脱ぎ、チャンナに手渡し、馬のカンタカとともにカピラ城に持ち帰るように命じました。
そのような、衣服は苦行者にはふさわしくないからである。
そして、王子は、長い髪をみずから剣で切り落としました。
最後にオレンジ色の衣をまとい、托鉢(たくはつ)の鉢を手に取ると、チャンナに立ち去るように命じました。
伝説では、このような衣類と鉢は、神々がブッダに与えたとされています。
しかし、チャンナは拒みました。
「わたしも出家させてください。」
「だめだ。あなたは、私の衣類と宝石を父に持って帰って、私の無事を伝えておくれ」
チャンナがしぶしぶ宮殿へ戻ろうとしたとき、
馬のカンタカはどうしても動こうとしませんでした。
王子はカンタカをさとし、カンタカやっと動き出しましたが、しばらく進み、立ち止まりを繰り返したそうです。
そして、その目には涙がこぼれていたといいます。
後に、この馬は悲しみのあまり死んだと伝えられています。
私は、この話を聞くと、いつも、ブッダの涅槃の様子を思い出します。
ブッダが亡くなった時、さまざまな動物たちが悲しんでいる様子です。
カンタカはブッダと別れることが、さぞ、辛かったでしょう。
つづく