ブッダ物語10 シッダールタの慈しみ
ブッダの幼少期は、王子として学問や武芸を磨きました。
机に座って先生の授業を受ける姿のレリーフも残っています。
レリーフとは、壁などにほどこされた彫刻です。
七歳になったブッダは、しばしば、木の下で瞑想にふける時がありました。
ブッダの影は長い間全く動いていなかったというほど、集中していたそうです。
すでに、ブッダとなる片鱗(へんりん)が見えています。
ブッダが幼い頃、生きものを哀れんだという逸話はたくさん残っています。
ある日、いとこのデーヴァダッタ(Devadatta)と一緒に森を歩いていました。
このデーヴァダッタは、後程、ブッダの教団で問題を起こす人物です。
デーヴァダッタは空中に白い鳥が飛ぶのを見つけると、ねらいを定めて、矢を放ちました。
二人の少年は、鳥が落ちたところへ駆け寄りました。
先に到着したブッダは、鳥がまだ生きていたので、翼から矢を静かに抜いてやり、血を止め、木の葉で手当てをしてあげました。
デーヴァダッタは、鳥を渡せと詰め寄りましたが、
「鳥は死んでいない。傷ついているだけだ。命を救ったのは私だから鳥は私のものだ」
と、ブッダは反論しました。この口論が、賢者たちの法廷にまで持ち込まれます。
証言がすべて聞かれたあと、
「生命はそれを救おうとする者に帰属する。生命を奪おうとする者は、それを要求することは出来ない。したがって、鳥を得る権利は、シッダールタにある」
という判決が下されました。
驚くべきことに、ブッダの時代に裁判があり、生命の尊さが議題にあがり、このような結論が出ていたと言うことです。
この事件は、この後、ブッダの人生で最大の転機(てんき)となる「死」という問題に関係するのかもしれません。
いや、幼少期のブッダはすでに「死」の問題を深く考えていたのかもしれません。
つづく