Tendai Taishi Written by Seimin Kimura

ブッダ物語40 女性の誘惑

ブッダの生涯

ブッダ教団が大きくなるにつれ、他の宗教家たちの間に、自分たちの信者も奪われるのではないかという不安が増大し、嫉妬が生まれた。そこで、ブッダがジェータヴァナの本部に滞在中、宗教家たちは、二つの陰謀を企んだ。

チンチャーの誘惑

最初の企みは、チンチャーという美しい若い女性がからんだものである。彼女は出家して、遊行の尼僧の生活を送っていたが、わけあってブッダに対立する一派に恩義を感じていた。その一派は、チンチャーをブッダの名声を傷つけることに利用しようと考えた。出家したにもかかわらず、彼女は世俗的な想像力を失ってはいなかったからである。一度陰謀に協力するように説得されると、自分の役割を巧みに演じた。

ブッダがジェータヴァナ僧院に滞在中、近くのサーヴァッティー市に住む人々は、毎朝ブッダにあいさつに出かけ、午後ふたたび説法を聞きに行き、夕方家へ戻るのが習慣であった。チンチャーは、派手な色の衣服に身をつつみ、香水の匂いをプンプンさせ、手に花束を持ち、毎朝サーヴァッティーからジェータヴァナに通い始めた。もっとも、彼女の場合は、夕方に出かけて、共謀者が用意した宿で夜を過ごし、翌朝町へ戻るという、他の人達とは異なる行動である。したがって、夕方チンチャーがジェータヴァナへ向かって歩いて行くと、帰途につく人々に出会い、朝にはその逆になった。

当然、これらは人々の関心を引き、皆が彼女に何をしているかを尋ね始めた。最初チンチャーは、

あなたたちには関係ありません。

と答えるだけだった。しかし、数週間経つと彼女の往来は有名になり、次の様に答え始めた。

ブッダと二人きりで、素晴らしい香りの部屋で夜を過ごしました。

時が経つにつれて、チンチャーは布を腰の周りに巻いて妊娠しているように見せかけた。そして、ブッダが父親だとおおぴらに言い始めたのである。

約9ヶ月が経過すると、ついに彼女は木片をコートの中に詰め込み、ジェータヴァナのブッダが説法している所へおもむいた。まるで、歩き疲れた様によろめきながら現れると、ブッダの説法のさなかに、皆の前で皮肉な口調で話しかけた。

偉大なお坊様。ずいぶんたくさんの方が、あなたが真理を説くのを聞いておられるのですね。あなたの声はなんと甘く、唇は何と柔らかなんでしょう。でも、私をはらませたのはあなたです。子どもは、いつ何時生まれてくるか分かりません。それなのに、あなたは何の手助けもしてくれないじゃありませんか。

さらに同じ調子で続け、最後にこう言った。

遊び方はよくご存知のくせに、生まれる子どもの責任をとろうとはなさらないのですね。

ブッダは、説法を邪魔されたが、こう答えただけであった。

尼僧よ。私たち二人だけが、あなたが言うことが正しいかどうかを知っていますね。

その瞬間、ピューと風が吹いて、チンチャーのコートをまくり上げ、木片は尼僧の足元にボトリと落ちた。それによって、彼女はつま先を切り落とされてしまったのである。憤慨した群衆は立ち上がり、

嘘を付き、ブッダの悪口を言うなんて、醜いやつめ!

と叫びながら、ただちに彼女を追い払ってしまった。つま先を失ったチンチャーはもちろん、共謀者たちは悔しがったが、ブッダの名声はいっそう高まった。

スンダリーの誘惑

しかし、この失敗にもめげず、宗教家達は、ブッダの信用を傷つけようと、もっと巧妙なたくらみを考えた。今回の主人公もチンチャー同様、たいへん美しいスンダリーという女性である。しばらくは、まるでブッダの愛人のように振る舞った。しかし、彼女の場合、事件は不幸な展開をし、ほんの数日後悪人どもに殺されて、ブッダの滞在していた僧院のそばのゴミ溜めに捨てられてしまったのである。スンダリーの失踪に、反対派たちは大騒ぎして、犯人を探し始めた。王の所へ訴え出ると、

スンダリーは、近頃ジェータヴァナで夜を過ごしました。

と告げた。反対者達は、王の許しを得て、捜索隊を組織し、彼女の死体をゴミ溜めで見つけると、ぎょうぎょうしく町へ運び込んだ。そして王と市民に向かって、ブッダと彼女の情事を隠すために、スンダリーはブッダの弟子たちに殺されたのだと主張した。その結果、事件は人々の関心の的となったが、それを聞いたブッダはこう言っただけであった。

実際に起こらなかったことを起こったと言う人は誰でも、自己の悪業の悲しい結果を引き受けなければならない。

一方、王は事件を調査するために自分の部下を派遣した。まもなく彼らは、人殺しの報酬で飲んでいる殺し屋たちに出くわす。そのとき殺し屋たちは喧嘩をはじめ、たがいに人殺しの罪をなすりつけ合っていた。ただちに王の前に引き出された彼らは、すべてを白状する。王は、問題の宗教家たちを召喚し、町中に自分たちの罪を告白して歩くように命じた。その後はじめて、彼らは殺人に対するしかるべき罰を受けたのであった。