ブッダ物語11 妻と第一のしるし
ブッダも妻をもらう歳になりました。
父シュッドーダナ王は、適齢期の娘を王宮にあつめ、ブッダに選ばせました。
王子は、いとこのヤショーダラー(Yaśodharā)を選びます。
王は望んでいた彼女を王子が選んだことを非常に喜びました。
王子が29歳の誕生日を迎えるころ、妻ヤショーダラーは出産をひかえていました。
王は内心ほっとしていました。
「王子が王の座を捨て、出家するという」予言者の言葉がずっと心から離れなかったからです。
しかし、ブッダはやはり、そのような生活に満足せず、世話役のチャンナ(Channa)を呼んで、旅に出かけます。
王子は、立派な馬を四頭つないだ馬車に乗って、外の世界に出かけました。
しばらく行くと、背中は曲がり、疲れたようすの老人がひとり、道の隅にたたずんでいました。
「あれは、何だ。人間のように見えるが、髪は白く、歯は抜け落ち、ほおはやせこけている。肌はガサガサして、しわだらけ。おまけに目はただれている。あの曲がった背中、突き出たあばら、筋肉の衰えた手足、だから、杖にすがっているのだな。あれは、どういう人間なのだ」
「王子さま。あれは老人です。60、70,いや80年以上生きて、身体は衰えつつあるのです。何も驚くことはありません。これは、ごく当たり前のことなのです。みな年をとるのですよ。」
「われわれはみな、あのようになるというのか。ヤソーダラーも、おまえも、友も、そして私も」
「はい。王子さま。それが私たちの運命です。」
王子は、ひどく動揺した。
とまどいのあまり口をきくこともできなかった。
そして、旅は中断し、馬の向きを変え、宮殿に戻った。
ひどくふさぎこんだ王子を見て、王は、チャンナにわけをたずねた。
訳を聞くと、王は絶望のあまり叫んだ。
「ああ。おまえは、私のこれまでの努力を無駄にしてしまった…」
王は、あの時、予言者たちに「悟りを求めて家を出る」という言葉を聞いてから、王子にさまざまな快楽を与え、四つのサインを見ないように努めていたのです。
しかし、王子は、今日、第一番目のサインである「老」という人間には避けられない真実を見てしまったのです。
つづく