ブッダ物語32 祇園精舎
竹林精舎に六十戸の家を建てた商人の妹は、アナータピンディカという男に嫁いでいた。
アナータピンディカが、たまたま仕事でラージャガハにやって来た時、たいへんな騒ぎの最中であった。
料理人や召使いは、見るからに重要そうな行動をしており、準備に夢中で誰も彼の相手をしなかった。
彼は、この扱いに少し腹を立てた。
「私が来ると、いつも義兄さんは何もかもやめて歓迎してくれるのに。今日は、何か重要な宴会でもあるのだろうか。」
やがて、準備の指示を終えた商人は、やっとアナータピンディカに挨拶をしにやってきた。
そしてこの大騒ぎの理由を彼に話した。
この騒ぎは、ブッダ僧団を食事に招く準備だったのである。
それを聞いたアナータピンディカは、すぐに好奇心に駆られて、翌朝ブッダに会いに行くために、竹林精舎に向かった。
ブッダは外を散歩しており、アナータピンディカがやって来るのを見ると、
「いらっしゃい、スダッタ」
とだけ言った。スダッタとは、アナータピンディカの本名である。
親しく名前を呼ばれたの驚き、そして喜んだスダッタは、ブッダの足元にひれ伏し、在家の仏弟子となった。
スダッタは、サーヴァッティーという町に住んでいたが、今後、雨季の間はそこに滞在してもらうようブッダを招待した。
ブッダは、これに同意した。
サーヴァッティーに戻ると、スダッタは、どこかブッダたちが宿泊できる場所はないかと探し始めた。
そして、ついに理想的な場所を見つけた。
それは、ジェータ王子が所有する遊園であった。
王子は、スダッタに高い代価を要求した。
つまり、その園にじゅうたんのように金貨を敷き詰めれば売ろうというのである。
スダッタは、金貨を荷台に積んで遊園に持って来させた。
すべての金貨を遊園に敷き詰めたところ、門の近くに小さな空間が残ってしまった。
スダッタは、もっと金貨を持ってくるように召使いに言った。
さすがに、ジェータ王子も、これは普通の取引ではないことに気づき、残りの土地を寄贈した。
そして、王子は、そこに楼門を建てさせた。
一方、スダッタは僧団の為の住居などの施設を建てた。
これが、ジェータヴァナ僧院、祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)である。
漢訳では祇樹給孤独園(ぎじゅきっこどくえん)と呼ばれる。
これは、祇陀(ジェータ)王子の樹苑で、給孤独(アナーピンディカ)の園という意味である。