Tendai Taishi Written by Seimin Kimura

ブッダ物語42 悲劇の物語【孤独】

ブッダの生涯

パターチャーラ−という名の金持ちの家に生まれた娘がいた。彼女の両親はたいへん過保護で、娘を屋敷の一室に閉じ込めておいた。話し相手のいない彼女は、秘かに召使いの少年と恋に落ちた。

彼女が16歳になった時、両親は彼女を金持ちの家の息子と結婚させるよう準備を整えた。苦しんだ二人は駆け落ちしようと決心する。婚礼が行われる朝、彼女は水を汲みに行く召使いに変装し、誰にも気づかれずに、家の外に出た。そして、二人は、町外れで落ち合い、遠くの町へ行って結婚した。

やがて、彼女は、身ごもった。しかし、ここで問題が起きた。インドでは、出産は実家でしなければならないというしきたりがある。当然、夫は恐れおののいて、彼女に思いとどまるよう説得した。しかし、彼女はそのしきたりに背く気はなく、実家に向かった。やがて、旅の途中で産気づいて、彼女は出産した。実家に帰る理由がなくなった彼女は夫と共に引き返すこととした。

二人目を身ごもった時、彼女は再び実家に向かおうとした。ここで悲劇が起こる。旅の途中で陣痛がはじまった。それで、激しい雨が降り出し、嵐となった。夫は、雨をしのぐための覆いを作るために、枝を集めに森に向かった。しかし、そこで毒蛇に噛まれて死んでしまったのである。

さらに悲劇は続く。そうこうしているうちに、子どもが生まれ、母子3人は、一晩中、雨風にさらされることとなった。翌日、彼女は死んだ夫を見つけるが、どうしようも出来ず、生まれたばかりの子を背負い、もう一人の子どもの手を引いて旅を続けることにした。やがて、川にさしかかった。二人のこどもを抱きかかえて渡る体力が無いので、彼女は上の子を川岸に残すと、赤ん坊を抱いて川をわたった。対岸にたどり着き、子どもを川岸に降ろすや否や、タカが赤ん坊に襲いかかった。大声を出して追い払おうとした母親の声を聞いて、対岸で待っていた上の子は、母親が呼んでいると勘違いし、川に飛び込んだ。それを見ていた彼女は、すぐさま川に飛び込み上の子を助けようとするが、急流に流されて子どもは溺れてしまった。その間、赤ん坊はタカに連れ去られてしまった。

やっとの思いで、翌日、実家の町にたどり着いた彼女は、両親のことを町外れにいる男に聞いた。すると男はこう答えた。

その家族についてだけは聞かないでくれ

そして、男は近くの火葬場を指さして、昨日の嵐が、両親の家を破壊し、彼らは亡くたってしまったことを彼女に告げた。すべてを失った彼女は、悲しみに耐えきれず倒れてしまった。彼女が泣きながらのたうち回っていると、通りがかった人々は、あまりにも不憫(ふびん)に思い、彼女をブッダの所へ連れて行った。

狂ったように泣きじゃくる彼女に、世の中のものに永縁のものはない(無常)ということを説き明かし、長い長い生まれ変わり(輪廻/りんね)の中で、その悲しみは薄らいでいくことを説いた。それを聞いた彼女は、ようやく落ち着きを取り戻した。

世の中には、今回の話よりも、さらに深い悲しみに見舞われる人がいる。「孤独」という言葉は、非常に寂しく、厳しい言葉であるが、人の命は永遠ではないというブッダの言葉からは、冷たいようだが、受け止めなければならない真理が説かれている。