道心の中に衣食あり
もくじ
道心(どうしん)の中に衣食(えじき)あり
天台宗の開祖である最澄(さいちょう)さんの言葉に、次の様なものがあります。
被弘二師。
道弘人。人弘道。
道心之中,有衣食矣。
衣食之中,無道心矣。世の中には、二種類の先生がいます。
一つは、「道」という先生です。道(さとり)という先生は、人びとの志を高めます。
もう一つは、「人」という先生です。人という先生も、また、その道(さとり)に向かう心を高めます。
これらは、互いに高めあっていきます。
仏門に入り、悟りをもとめる決心(道心)があれば、おのずと、衣類と食事はそろいます。
しかし、衣類と食事を求める生活の中では、悟りを求めようとする心(道心)は決して生まれていきません。
二人の先生(師)
まず、世の中には二人の先生がいると言います。
「道」という先生
一つ目は、「道」という先生(師)です。
ここでの「道」は、目的としての「さとり」と、志を立てて進んでいく「道」(プロセス)の二つの意味を持つでしょう。
- 道の意味1:さとり = 目標
- 道の意味2:さとりまでの道のり = プロセス(道すじ)
「さとり」は、私たちが求めるものであり、目標としての先生です。ブッダのような先生(師)になりたい!ということです。
もう一つは、進んでいく過程(プロセス)としての「道」です。正しい道が引かれることによって、我々はゴールに向かって進むで行けます。このような「道」も、我々の先生です。
「人」という先生
二つ目は、「人」という先生(師)です。
「さとり」(道)というものがあっても、それを教えてくれたり、導いてくれたりする「人」は不可欠ですよね。
もちろん、ブッダが生きていた時代は、ブッダが師(人)です。
今の私たちには、学校の先生や、職場の先輩、または、父母、友人が先生(人)になる場合があるでしょう。
生活のためではなく、目的達成のために生きなさい
続いて、悟りをもとめる決心(道心)を持っていれば、おのずと衣類や食事、つまり、生活は付いてくるといいます。
「道心」とは、「目標を達成しようとする精神」を意味します。
我々に置き換えると、道心とは、「お医者さんになりたい」「パイロットになりたい」「女優になりたい」などの目標を達成しようとする精神・決意です。
この決意がなければ、なかなか目標を達成できないでしょう。
反対に、生活を安定したいと考えるのが先だと、さとりや、目標を達成しようと思う心は決して起こりません。
それは、生活のためだけに生きていることとなります。
以上は、非常に実行するのが難しい言葉です。
また、最澄さん自身も、そうとうな覚悟で、この言葉を述べたのでしょう。
しかし、実行は難しい
目的を決めて、信じてそれに向かって進んでいけば、心配しなくても、生活は安定するよ
と言われて、「なるほど!」と思いますか?
家賃は払わないとだめだし…
携帯代もあるし…
子供の塾の費用もいるし…
美味しいものもたまには食べたいし…
となるでしょう。
私は、この文を非常に厳しい「決心」のあらわれだと思います。
「このような決心がなければ、仏門に入って、悟りなんかひらけないぞ!!」
と最澄さんに言われているようで、身が引き締まります。
一般に生活されている方でも同じですよね。夢を達成させ一流になるためには、時には、お金を稼ぐよりも自分磨きに時間を費やさなければならない時が多くあるでしょう。
外国に、こんなことわざがあります。
『論語』では
『論語』にも、次のように、よく似た言葉が出てきます。
子曰。人能弘道。非道弘人。
先生は言いました。人は道(道徳)をひろめることが出来るが、道が人を高めることは出来ない。
あれ?「道」は人を向上させるものではないんだ。
よく似ていますが、最澄さんと少し違います。
しかし、続きは、よく似ています。
子曰。君子謀道,不謀食。耕也,餒在其中矣。学也,禄在其中矣。君子憂道,不憂貧。
先生は言いました。教養人は、心のありかたを追及するのであって、食べていくことを追及するのではない。耕作(こうさく)しても〔凶作であれば〕食べていけないことがある。〔教養人のように〕学問をしていれば、食べていくことができることがある。〔なぜなら、教養人は、〕心のありかたの貧しさを憂(うれ)えるが、貧乏で食べていけないことを憂えないからである。
つまり、心のあり方の重要性が説かれています。食べることばかりを考えるのではなく、心を磨きなさい。
さいごに
つまり、最澄さんは、
何か目標を立てて、達成したいと思う時は、それに一生懸命になりなさい。生活はきっと付いてくるから、大丈夫。
と、我々の決意を後押しをしてくれているのですね。
何か、目標に向かって頑張っている時、悔しい思いをしたり、挫折しそうになったりする時もあると思います。
しかし、頑張り続けてさえいれば、きっと、食べていけるようになります。生活で貧しくなるよりも、心が貧しくなりたくないですね。
さいごに、最澄さんに関するオススメ本を紹介しておきます。
木内堯央『最澄と天台教団』
最澄さん研究の第一人者。文章は分かりやすいし、確実な研究成果のもとで書かれています。下手な大学授業よりよっぽどためになります(笑)
超オススメです。
師 茂樹『最澄と徳一 仏教史上最大の対決』
最澄さんと徳一さんの論争について書かれた本です。最澄さんが最後まで天台宗を愛し、法相宗の徳一さんと戦いました。この本もオススメです。
では、夢に向かってがんばりましょう!!