ブッダ物語45 バランスが精神の基盤
今回は、身体のバランスを取ることが、精神のバランスにも繫がるというお話を紹介します。
もくじ
パセーナディ王のダイエット
コーサラの国王パセーナディ(波斯匿王,はしのく・おう)は、美食家であった。
彼のご馳走は、バケツ一杯のご飯と、それと同じ量のカレーである。
ある日、いつものように朝食をとると、王は眠くなった。
しかし、そんなに早くから居眠りするわけもいかず、ブッダが滞在していたジェータヴァナ僧院(祇園精舎,ぎおんしょうじゃ)へ散歩に出かけた。
疲れた顔でブッダのそばにドサリと腰を下ろした王は、目を開けているのもやっとであった。
「大王よ、どうしたのですか。昨夜はよく眠れなかったのですか。」
とブッダはたずねた。
「尊者よ、そんなことはありません。食事のあとはいつもこんなふうになるのです。」
と、王は丁重に答えた。
「大王よ、問題は食べ過ぎでしょう。
食べては寝てばかりいて、豚のようにうごめき回る怠け者は、必ず苦しむことになる愚か者です。」
さらにブッダは続けた。
「大王よ、食事において、かたよらないことがよろしい。
そうすれば満足があるでしょう。
食事を控えめにする人は、若さを保ち、いつも健康です。」
しかし、哀れなパセーナディ王は、自分で自分をしつけることができなかった。
ダイエット開始
ブッダは、王の甥(おい)のスダッサナ王子を呼んで、援助を求めた。
パセーナディ王に与えた忠告を告げると、王が食事をとるときにはいつもそれを注意するよう王子に頼んだ。
皿に残った最後の一握りのご飯を王が食べようとするとき、王子は彼をとどめて、ブッダの忠告を思い出させる。
次の食事には先ほど残されたのと同量のご飯を用意することにした。
王は一生懸命これに協力した。
事実、ブッダの忠告を注意された時には、必ず千枚の金貨を施して、
自分の大食いを罰した。
やがて、王は米の量を一日一なべほどに減らした。
ダイエット成功
この節制によって、元気で細身の男に変身した王は、感謝の言葉を述べにブッダのところへやって来た。
「やっとふたたび幸せになりました。
また元通りに狩りに出かけて、野生の動物や馬を捕まえることが出来ます。
以前、甥とは喧嘩ばかりしていましたが、今では、大変仲良くなって、娘を嫁がせたほどです。
それから、うれしいことに、昔なくした貴重な宝石が見つかって、戻ってきました。
そのことをとても喜んでおります。」
こうして、パセーナディ王は、バランスのとれた食事療法で、精神のバランスも保たれた。
精神のバランスを保つことは全人格の基礎になる
ある日、ブッダの所を訪れたパセーナディ王は、苦行者の一団が道を歩いているのを見た。
当然のことながら敬意をこめて、王は立ち上がり、うやうやしくあいさつした。
彼らが通り過ぎた後、ブッダを振り返ってたずねた。
「あの苦行者の中に、聖者と呼べる人が誰かいたでしょうか。」
この少し無邪気な質問に、ブッダは、まず、欲情の生活にとらわれ、財産に心を奪われている俗世の人間が、そのような聖者かどうかの判断を下すのは難しいことだと指摘した。
彼は、さらに続けた。
「ひとりの人と十分に、しかも長い間接してはじめて、その美点を知ることが出来ます。
それは、決してとっさに見出されるものでもなく、愚者が知ることもできません。
ただ、賢者にのみわかるのです。
長く付き合って、はじめて他人の誠実さを判断することができます。
困った時に、はじめて他人の忍耐強さがわかるものです。
そして、人と交わるとき、いろいろな話をして、はじめてその人がどのくらい賢明であるか言うことができます。」
ブッダは、人を評価する超能力をもっているなどと言いはしなかった。
彼の判断は、経験による結果であった。
まとめ
パセーナディ王は、食生活の改善により、精神のバランスも保たれました。
これは、現在の私たちにも言えることです。
暴飲暴食は、確実に精神のバランスも崩します。
ブッダのアドバイスが、とても合理的なことがわかりますね。
二つ目の話のポイントは、他人を判断することの難しさです。
相手を知るには、長い付き合いと、よほどの経験がないとダメだとブッダは言います。
それから、超能力を否定している点も重要ですね。
このような意味で、ブッダは、呪術などではなく、現実的な人だったことがわかります。